草木を世話して思うこと
雨が多く蒸し暑い季節になりましたね。汗がべとつき、さわやかとは言い難い季節ですが僕はこの季節がけっこう好きです。
この時期植物がどんどん枝を伸ばし、放っておいても育っていきます。病院の前にはいろいろな草木の鉢植えが置いてあります。
冬の寒さでダメになってしまったかのように見えていた植物がみるみる青さを増し、花が咲き、枝や蔓はどんどん伸びます。
勢いのついた植物はちょっとくらい短く切ってもそこから新たな枝を伸ばし、よりこんもりとします。切った蔓は捨てずに水に
つけておけば根が生えてきて、それを土に植えればまた一つ鉢植えのできあがりです。もちろん植物の種類によりますが、
この増殖力、生命力は感動的です。雑草に泣かされている人にとってはうっとおしくもあるかもしれませんが。
種で増える以外にも、切った枝からまた根や蔓が伸びていく“さし穂”や、切った枝を生きた木に接いで活着させることで増やす
“接ぎ木”など、種類にあった再生法をとれば植物は切れ端からでも増えることができるのです。
昨年10月に病院を開院したばかりのころは殺風景だった入り口には多くの植物が彩りを添え、そこへ多くの虫たちが集まってきます。
あ、虫はきらいですか?あまりお好きな方は多くないかもしれませんね。僕だってハエがたかったり、ボウフラがわいたり、
壁をゲジゲジが這ってたり、とんでもなく大きな蛾が網戸に張り付いていたりするのは好きではありません。
でも、多くの鉢にハチやテントウムシ、カミキリムシなどがいるのを見るのが割とすきだったりします。
再生力ってすごい という話
雑草を抜いても抜いても伸びてくる、あぁ面倒くさい!そんな経験があるかもしれません。よーく考えてみるとこれはすごいことです。これが人間だったらホラー映画に出てくる化け物みたいです。
人や犬、猫はさすがにこうはいきません。抜いても伸びてくるのはせいぜい毛ぐらいなものです。たとえば指がとれてしまったら、二度と生えてはきません。とれた指をいくら水につけておいても再生はしません。僕らの体は水につけているだけでは生きてゆけないのです。酸素を必要とします。酸素は血液が全身に送り込みます。またアミノ酸をはじめとした栄養も必要です。これも血液の流れが全身に運んでくれるのです。指が手から取れてしまった時点で血管という大事なライフラインが分断されてしまうので、とれた指は死んでしまうのです。
とれた指はダメになってしまいますが、手の傷口はその後も生き続けます。傷口の細胞は血液の供給を受けられるので生きていられるのです。そして、ただ生きているだけでなく、傷を治そうと活発に細胞分裂を繰り返し新しい組織を作っていくのです。
そして不思議なことに最後は表面にちゃんと皮膚が出来上がるのです。もし、皮膚ができることなくただ単に肉芽が盛り上がるだけだと、傷はいつまでもぐちゃぐちゃなままです。皮膚は細菌などの外敵から身を守る大事なバリアで、これがないと簡単に細菌が入り込んで膿んでしまうのです。
こうして考えると、犬や猫の組織も生きていくうえで必要な再生力はしっかり備わっています。指が新しく生えたりはしないけれども、ばい菌に侵されることなく生きていけるレベルまで傷が修復されるのです。
(仕事中の怪我をポンタが一生懸命なめてくれました。い、痛い……↑)
傷を負ってワンちゃん、ネコちゃんが病院へやってきたときに、僕たち獣医師は別に傷を治してあげてるわけではないのです。
傷は自分の再生力で勝手に治ってゆくのです。ただ、傷が治るうえで邪魔になるものを極力排除することで傷が治りやすくなるよう、
環境を整えているのです。
ばい菌は傷が治るのを邪魔する最大の敵です。
それから傷口が乾燥すると、細胞の分裂増殖が鈍くなり、傷の治りが遅くなります。以前は傷は乾燥させて治すというのが一般的でしたが、最近ではむしろ傷口は潤いを保っておくべきだという治し方が主流になりつつあります。乾燥していては傷表面の細胞は死んでしまい、なかなか新しい組織が作られないのです。潤っている方が細胞にとって活動しやすい環境なのですが、それは一方でばい菌にとっても居心地の良い環境になるので、ばい菌も増えやすくなってしまいます。
結局傷を治すというのは、いかに潤いを保ちながらばい菌の増殖を抑えるかが肝なのだとつくづく感じます。
で、これはなんだか植物の世話をするのにちょっと似てるなぁと思ったのです。
水を得て草木が青々とするほどに、それを食べたい虫たちが集まってきます。乾燥させれば食べる花や実や葉はしおれてしまうので虫は寄ってこないけど、これでは植物自体が枯れてしまって元も子もありません。
うちの鉢植えたちは虫が集まっても構わずおいてますが、草木を大事にするなら害虫をこまめに駆除したり、雑草を抜いたりします。
これが傷の治療なら、お薬でばい菌をやっつけたり、傷にこびりついた汚れをこまめにふき取ったりと、しばらくはきりがない作業を
地道に続けます。
そう、再生するのは傷の組織だけではない。
ばい菌や虫たちも、とってもとってもまた増えて集まってくるのです。
生き物の世界はそうした再生力のせめぎあいの世界なんですね。
ぼやぁ~っと空を見上げる
昼の休憩時間に病院の前のベンチで一服しながらぼんやりと空を眺めると、よくトンビを見かけます。僕はトンビの飛ぶ姿や鳴き声が
好きなんです。
トンビは大きな翼をひろげ、はばたくことなくうまく上昇気流に乗って空高くふわふわっと浮かび上がります。そして空高く舞い上がったのちに気流にのりながら優雅に滑空するのです。上昇気流を利用する性質のためか、トンビは山に生息します。なので平地ではまずめったにみかけないのです。
トンビの飛ぶ姿は子供のころ遊んだ紙ひこうきを連想させます。
紙ひこうき、たけとんぼ、しゃぼんだま、ふうせん、たこあげ…….
僕たちが子供のころは、今よりも空を見上げる遊びが多かったような気がします。
空をぼやぁ~っと見上げていると、自分の悩みがとてもちっぽけなものに思えてきて…
などというのをよく聞きますが、僕は貧乏性なのか「いかん、いかん、ぼやぁっとしてる場合ではない!」なんて思ってしまいます。
なんにも考えずにぼやぁっとトンビを眺めていられる日がいつか来るのかなぁ…
たぶんいつまでも日常に追い回され続けるんだろうなぁ…
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