秋は気持ちの良い季節です。空が高く、空気は冷たく澄み渡り、木々が色づき始めます。生き物たちはそろそろ冬に向けてそなえる時期です。
先日檜原の山で猿たちの群れをみかけました。霧雨の振る道路わきの斜面で子猿も含めて10頭ほどがじっと佇んでいました。あの猿たちもこれから厳しい冬を迎えるのです。私たちには身近なニホンザルですが、実はニホンザルは世界中の猿の中でもっとも北に生息する種類なんだそうです。雪が降り積もる中温泉に入っている猿の写真などを見ますよね。あんなに寒いところに生息する猿というのは世界でも珍しいんだそうです。
先日の猿は斜面の土砂崩れを防ぐための法面のわずかなくぼみに器用に座って、じーっと車が走りすぎていくのを眺めていました。あの、まるで人間のような眼差しをみていると、一瞬彼らとも意思の疎通が取れるのではないかと思ってしまいます。もちろんいきなり野生の猿に接触をしてはいけません、危ないので。でも、猿たちのフワフワとした毛並みはとても綺麗で触りたくなってしまいます。
青梅や奥多摩、檜原、日の出の山の中は自然の宝庫です。
この辺では普通にみられるニホンカモシカなども日本中どこでも見られるわけではありません。
ポンタと楓を連れてよく山の中へ行きます。
そこは、あまり人が来ない動物たちの世界。
そこで遊ぶ楓たちは本当に生き生きとしています。
山には犬達が喜ぶようなものがたくさん。
藪の中に分け入り体中種だらけになり、走り回り、木の根の臭いを嗅ぎ、草をムシャムシャと食べます。気が向けば沢へおりて水辺で穴掘り。浅瀬に入り、沢の中をジャブジャブと歩き回ります。ふいに目の前を飛んでいく蝶を追いかけます。
自然の中は、やることがいっぱいです。
そして危険もいっぱい。
時々斜面から転げ落ちてしまったり、よじ登りきれずに立ち往生したり、そんなことをしながら成長していきます。だってポンタ達は初めてのお散歩の時は階段ですら怖くて降りれなかったのです。今は木の根がむき出しの急斜面をすいすいと走り抜けていきます。僕はとてもついていけません。
(楓は穴掘りが大好き!)
うちのいそうろうくんの話
柴犬のポンタと楓のお話は今までに何度となく書いてきました。
来院された皆様は実際に受付で目にされた方も多いと思います。
実はうちにはもう一人ひっそりと暮らす居候くんがいます。
雄の猫で名前は「しろくろ」です。
これが話すと長いのですがもともとはなかなかに不憫な野良猫だったんですが、今やこんなに立派なおうちまであてがわれて偉そうに威張っております。
なにかの事故に巻き込まれたか、骨盤骨折をした状態で後ろ足が踏ん張れず、尻尾も動かない、うんちやしっこも麻痺しているようで自力ではまったく出せないという、もはや野良としては致命的とも思えるダメージを受けた状態で拾われたのでした。
こういうのが実はとっても困るのです。
だって、飼い主がいない野良猫、で、放っておけば生きていかれない、さりとてうちもスペースに限りがあるし、もとより猫を病院においとく予定なんかなかったので人員的にも面倒みきれない……
だいたい、毎日手で圧迫してうんちやしっこを出してあげるわけです。
「うーん……基本的には連れてきた方が面倒を見てくれることが前提での野良猫診療だが……毎日おしっこを出してあげてくださいと言っても、できることとできないことがあるもんなぁ…………うーん……… 」
が、しかし、うーん、うーんとうなっていてもしょうがないので、うちで面倒見ることになったわけです。そんなわけで最終的にしろくろは当初連れてきた方の手を離れ、うちの居候になったわけです。
それからというもの、毎朝、毎晩しっこ、うんち、しっこ、うんち、しっこ、うんち………です。いやぁ、さすがに獣医師とはいえこれはこたえます。だって人に頼むことができないんです。僕だってたまには私用がありますからね。ポンタ達なら「明日出かけるのでちょっと面倒みといてもらえる?」で済むわけですが、自力で排便も排尿もできない猫はそうはいかないんです。
このような頻繁に尿ができない猫は徐々に膀胱が伸びていき、一度にたくさんの尿が溜め込めるようになります。もちろんそれ自体異常なことなのですが必要に迫られて膀胱のキャパシティーが増えるわけです。でも、伸びきってしまえばますます自力排尿ができにくくなってしまいます。でも、しろくろの膀胱も徐々にそうなりつつありました。いくら頑張ってこまめに出す努力をしても、やはり徐々に膀胱は伸びてきてる感触がありました。
「だめだ、完璧にはやりきれない……」
ところがこれがなんとかなるもんだ という話
しろくろは毎日僕に下の世話をされながらも徐々に歩けるようになりつつありました。骨折については特に手術などもせずにいたのですが、足の動きが少し回復する兆しがありました。でも、排便、排尿については相変わらずまったくダメ。ためしに何もせずに放置してみると2日経ってもおしっこをしようという仕草もありません。麻痺して尿意すら感じないようなんです。
「く~!! 結局俺がやらないとダメか!!」
実はこの時、大事な予定があったんですね。大学を卒業して以来十ウン年来会ってない同級の仲間と久しぶりに集まろうという話がありまして。
ところがこちらはしろくろを抱えてるわけです。
「患者さんの猫だったら絶対にほっとかないけど、もう僕の猫だしな…だいたい、しろくろがいるからという理由で出かけられないんじゃもうどこにも行けないぞ。こないだわざと2日間放置した時もケロッとしてたからな、出発前の朝に出してやって、一泊して翌日の夜に帰って出してあげれば大丈夫なはずだ。よし!行ってみよう。」
この同窓生との集まり、場所は愛知県は知多半島の海岸沿いの宿だったんですね。
日ごろはろくに休みも取れずに働いてる同志たちの束の間の休息というわけです。
うちも患者様にはご迷惑をおかけしますが数日病院を閉めて、いざバイクに跨って出発! え、?なんでバイクかって?貴重な休暇ですよ、同窓会、趣味のツーリング、できる時にはまとめて済ませます。
時は3月、ようやく春めいてきて暖かい日はバイクが最高に気持ち良い季節!
幸い天気にも恵まれていざ出発!春の中央自動車道は新緑が芽生えつつも、ほとんどが山の中なのでまだまだ凛と冷たい空気が気持ちを引き締めてくれて本当に気持ちが良いのです。小仏峠、談合坂を抜け、上野原や大月の街並みを眼下に眺めながら進めば笹子峠をトンネルで抜け、甲府盆地目指して下ってゆく。しばらく甲府の街並みを横切りながら快適に飛ばせばじきに前方に南アルプスの山並みが目の前に開けてきます。それはとても清々しい風景。山並みの頂にはまだ雪が積もってるのが見えます。
素敵な景観に酔いながら走るうちに今度はひたすらに上り坂になります。ここからは一気に標高があがります。高速道路とはいえ、かなりな急こう配をとばしていきますと、八ヶ岳、小淵沢、徐々に風景は高原の様相。標高は1000mを超え、ここはさすがに寒いのです。寒さを我慢しながら走り続ければ諏訪湖サービスエリアが見えてきます。ここで一息。
すこし冷えた体をお茶とラーメンで暖めたら、残り半分を名古屋にむけて一気に南下します。ここからも名古屋近くまでひたすらに山の中を駆け抜ける、中央自動車道は実に完全な山岳道路なのです。天気のいい日の中央道はバイクで走るのに本当に気持ちの良い道で、諏訪湖を出発してからは右手に中央アルプスを眺めながら穏やかな春の空気をいっぱいに浴びるのでした。
その晩、本当に久しぶりにあった同級生たちはお互いちょっとおじさん、おばさんになりながらも、話していくにつれ酒も進み、最近ではないほどに酩酊していくのでした。
やっぱり思い切って参加して良かった。
これからだって生きてるうちにもう二度と会わない奴だっているはず。
翌日は若くして亡くなった同級生のご実家近くのお墓参りをし、在りし日のことを思い出しながらも、そろそろ帰らなければならない時間になりました。
ご実家で手厚いおもてなしを受けているうちに時間は経ち、帰路についたのは予定よりもはるかに遅れてしまいました。もうすでに日が傾く時刻にやっと出発、愛知から青梅まで中央道を一気に駆け抜けようというのです。
さて、束の間の休暇も終わりが近づきました。
旧友との楽しい再会、素晴らしい山々、そんな楽しい時間はあっというまに過ぎ、またうんち、しっこの毎日に戻るのです。
ところが、この帰路が楽ではなかった。
愛知を出発した時点ですでに夕方、春が近いとはいえ日が暮れれば山の空気はぐっと冷え込み真冬並み、しかも山中に入るにつれ雨足が強まり中央道が長野に達したころには激しいどしゃぶりとなりました。
気温が10℃そこそこの中ぐっしょり濡れながら時速100kmで土砂降りの中を走るとどうなるか。
どんなに雨対策をしても長時間のうちにどこかしら水が中にしみこみ、そこから急速に体温が奪われます。手先、顔面をはじめ身体中がキンキンに冷え切りつらいのを通り越して、すこし頭がぼんやりとしてくるのが自分でもわかるのです。名古屋から諏訪湖に至るまでの道程はほとんど土砂降りの中。途中なんども小休止をいれながら走り続けましたが、
「いかん……すごくボ~っとする…このままでは危険かも…、今夜はどこかで宿を探して一泊するかな…明日も仕事は休みにしてあるし。」
ついに心が折れかかったのは木曽駒ケ岳が見える、とあるサービスエリア。
が、しかし、もうひとりの僕がささやく
「しろくろのしっこを出すんじゃないのか! まさか放っておくつもりか!」
もう完全に走れメロス状態です。
「わかったわかった!走りますよ、走ればいいんでしょ、えぇえぇ走りますとも!」
こうなればやぶれかぶれです。
とにかくスピードは出しすぎない、車間距離を十分にあける、車線変更はしない、これだけ守れば多少ボヤーっとしててもそうそう事故は起こさないはず。
もうやけくそで走り続けるうちにようやく諏訪湖サービスエリアに到着。
ここは、実は温泉があるんですねぇ。
とるものもとりあえず温泉にジャブン、ちじみあがった体をお湯でほぐします。
もう、日はとっぷり暮れて、多少小降りになった雨がしとしとと落ちる諏訪湖の夜景を見ながら、
「しろくろ、待ってろよ、今行くからな」
気分は完全に救世主です。(自分の計画が無謀なだけなのに)
ここから先がまた標高が高く半端なく寒いのですが、幸い雨が小降りになってたので気合で走り切り、八ヶ岳あたりから標高が下がり、ようやく眼下に街の明かりが見えてくると、なにかはるばる異国からようやく地元に戻りつつある感慨が…
しかし、ここから先、笹子トンネルを抜けたあたりからもう一山超え、これまた寒い中を「あと少し…あと少し…」と修行僧が念仏でも唱えるようにして、ようやく帰ってきました、青梅に。
「着いた……最後まで、くじけず走ったぞ……
しろくろ、いま、しっこ出してやるからな……」
入院室へ、しろくろの待つ入院室へ。体が重い、動かない…
しろくろは元気かな?中をのぞいて唖然………………………
「自分でしっこしてるじゃん……」
タオルにしみこんだ大量のおしっこ、そして人の心配をよそに無邪気にご飯をねだるしろくろがそこにいたのでした。しろくろは、この日を境に自分でおしっこをするようになりました。嘘のような本当の話。よかったね!しろくろ!
翌朝、無理がたたって僕が血尿が出てしまいましたよ、まったく……(-_-;)
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