犬の飼い主様には忙しい春の予防の時期がひと段落してきました。
この時期は病院も込み合います。
徒然なるままにしたためておりますこの病院通信は、忙しくなると途端に滞ってしまいます。
最近は季節の移り変わりも昔とは変わってきていて、春らしいちょうどよい日和が少ないですね。
「寒さもやわらぎ、春らしい陽気に……」なんて書き出したところで診察が忙しくなってついつい筆が遠のいてるうちに あっという
間にものすごく暑くなってしまい、こうなってくるともう最初っから書き直しです。季節が巡るのが早いのか、僕の仕事が遅いのか、
とにかく追いついてませんね、
トホホ………
さぁ!今日こそ病院通信を書くぞ!
と、思ったら患者さんです。診察って診察室で犬や猫を診たらそれでおしまいかというとそうではなくて、「さっきの子は何が原因で
調子が悪いのだろうか?あれも考えられる…これも考えられる…、次来たときも良くなってなかったらどんな検査が必要かしら?」と
頭はフル回転。もう病院通信の事はそっちのけです。そんなことの繰り返しのうちに午前の診察が終わりました。
午前中の診療を終えて病院を閉めると、今度は往診です。
いろいろな事情で病院にワンちゃんや猫ちゃんを連れてこられない方の家に行って、診療をします。重い病気の子もいれば、予防注射のために行くこともあります。
そうこうしていると昼の間も休む間もなく過ぎてゆき、今日も病院通信を書く暇なんかどこにもないのです。
往診の話
往診は手間がかかりますが、やりがいがあり僕の好きな仕事の一つです。
近くは河辺下、新町、東青梅、小作、羽西、東は福生、瑞穂、時には立川、西は長淵、柚木、和田、御岳を抜けて棚沢、氷川、海沢、
日原まで行くこともあります。
犬や猫たちにもそれぞれの人生があって、歴史があります。往診でご自宅に伺うとそれが良く感じられます。僕らは往々にして調子が
悪くなってからの事しか知らなかったり、年老いてからのその子の事しか知らなかったりすることがよくあります。飼い主さんは当然
その子が子犬の頃から知っていて若くて健康で元気で愛らしかったころのその子と、すっかり年老いて元気をなくした今の姿を比べて
切ない気持ちになり、何とかしてあげたいと思っているはずなのです。
家にはその子がず~っと暮らしてきた佇まいがあるので、そこで調子悪そうにぐったりしている犬や猫がいる風景はとても違和感が
あり、痛々しく感じられます。
さて、今回の往診は山間の深い谷筋の中腹にある家です。
往診車は山道を右へ左へとひた走り、山が深くなる程に空気が変わっていきます。山に入るとこの時期は緑がとても綺麗なんです。
山を眺めているとついつい清々しい気持ちになってしまいますが、この先に体が動かせなくなった犬が待っているのです。
病気の影響で動けずに寝たきりの生活を余儀なくされ、いろいろなお世話が必要になっているのです。飼い主様のまめまめしい介護
の甲斐あり食事を食べたりする元気はあるのですが、なにしろ自分のことが自分でできなくなってしまっている犬なのでそのご苦労
は生半可ではありません。そこで定期的にお伺いして、状態を確認しては必要なお世話をしに行きます。今日はどうした治療をする
べきか考えているうちに到着です。
今日もワンちゃんは寝たままです。小さな声でワンワン言っています。
でも今日は心なしか楽そうな顔をしています。そんな時はホッとします。
「あぁ、今日は機嫌がよさそうだね、良かった良かった」
ご飯も自分では食べられず、おしっこさえ自力では出せない可哀そうな子です。だから明るい表情を見せてくれている日は嬉しい気持ちになります。少しでも気持ちよく過ごさせてあげたいと思うのです。
こんにちは、今日も来ましたよ。調子はどうだい?今日は楽そうに見えます。良かった。
犬は何も答えてくれません。代わりに飼い主様がいろいろと様子を教えてくださいます。
「今日はご飯をこれくらい食べたよ。夜は時々吠えたけど、まずまず眠れていましたよ。」
僕たちは犬の本当の気持ちを知るすべがありません。だから、様子から今のやり方でいいのか、変えるべきなのかを考えるしかあり
ません。
「本当はこんなことされて迷惑に思ってないかな?でも、やってもらうと楽になるから少しぐらいは我慢するかな?なんて思って
たらいいのだけど」
点滴をしたり、おしっこのチューブを確認したり、必要なことを進めているうちに、飼い主様のお話は今の病状の話から昔の思い出話になってきました。今は動けなくなりましたけど、若い頃は誰かに捨てられて山の中を駆け回る野良犬だったこと、どちらからともなく徐々に今の飼い主様に懐くようになってきたこと、一度役場まで連れていかれてしまったことがあったが自分で綱を食いちぎって脱走し10㎞近い山道を走ってあっというまに今の家まで戻ってきたこと、はじめのうちは首輪がつけたくてもつけられなかったこと、鹿を追いやってまるで猟犬のような活躍っぷりだったこと、猿におっかけまわされて大急ぎで逃げ帰ってきたこと、そうこうしているうちに徐々に飼い犬になって今のおうちに飼われるようになったこと。話は尽きません。
若かったころのお写真を見せていただきました。
左はお父さんの釣りについて行った時のものだそうです。
右はご自宅近くで撮ったものでしょうか、この頃はまだ首輪もついておらず、表情にもどこか野良犬の険しい表情が残っている
ようにも見えます。
もう10年近く前のことです。今は起き上がることもできずにいますが、もしもこのまま野良犬だったら今頃この子はもういなかった
ことでしょう。
動けないなりにも平和に暮らしていられる、それはひとえに飼い主様の犬への愛情の賜物だろうと思うのです。そんなことを思いながら今日の診察はおしまい。今夜は眠れるといいね。
さて、帰りましょう。また来るからね!その時も元気な顔を見せてくださいね!
Vol.01へ戻る Vol.02へ Vol.03へ Vol.04へ Vol.05へ Vol.06へ Vol.07へ Vol.08へ Vol.09へ Vol.10へ Vol.11へ Vol.12へ Vol.13へ Vol.14へ Vol.15へ Vol.16へ Vol.17へ Vol.18へ Vol.19へ Vol.20へ Vol.21へ Vol.22へ Vol.23へ Vol.24へ Vol.25へ Vol.27へ Vol.28へ Vol.29へ Vol.30へ Vol.31へ Vol.32へ Vol.33へ Vol.34へ
Vol.35へ
こむかい動物病院ホーム |ごあいさつ |病院案内| 診療内容 |施設案内| 診療時間 | アクセスマップ 青梅市 河辺町 こむかい動物病院 各種予防処置・去勢避妊手術・往診 |