暑いですね。
お盆が来て、夏も折り返しに入りましたがそろそろ暑さが体にこたえる頃です。
近頃の暑さはもはや従来の日本の夏ではありません。
もう、あの頃のような風情のある夏は戻ってこないのだと思うと寂しく感じます。
人の世の諸行無常はまぁそんなものだろうと受け流せますが、自然環境という取り返しのつかないものが目の前で変化して行き、
そしてそのことにあまりに無関心な人間の営みにとても不安を感じます。
子供の頃はよくセミの抜け殻を拾い集めて並べて眺めたものです。蚊に刺されながら藪の中を探し回る時のワクワクした気持ち、
早朝にカブトムシを探しに近所の雑木林に入って行った時の草いきれ、あの湿った土のにおい、林に入った瞬間に涼しい空気が
身を包むあの感覚、じいちゃんちの縁側に蟻地獄の巣を見つけずーっと見つめ続けた飽くなき好奇心、沼にたくさん泳いでいる
オタマジャクシを夢中で捕まえた後、それがカエルになるさまを想像してドキドキしたこと。遠い夏の記憶。思い返すと本当に
懐かしく、いつかまたそんな日々を過ごしたいなと思いますが、多分無理なことも分かってはいるのです。
子供の時分、僕はいろいろな生き物を飼っては死なせました。
金魚、メダカ、蟻、カブトムシ、クワガタ、カミキリムシ、カマキリ、バッタ、イナゴ、コオロギ、蝶、セミ、オタマジャクシ、
カエル、トカゲ、イモリ、亀。僕の親はハムスターだのといったペットショップで買うような生き物の飼育を決して許してはくれ
ませんでした。おそらくあまり生き物は好きではなかったのでしょう。ハムスターや犬や猫がダメなら他のものを飼うまでです。
虫やらを捕まえてきては飼育を試みました。親にしてみればハムスター以上に気持ちが悪かったろうに。
ハムスターなら「買ってよぉ!」「ダメです!」で済みますが、子供が原っぱで虫を捕まえてくるのは禁止できません、というより
禁止したって勝手に捕まえてきてしまいますからこればっかりは防ぎようがなかったのでしょう。もう、あきらめて黙認していたの
でしょう。どうせ子供のやること、そのうち飽きるだろうと思っていたかもしれません。まさか、いい大人になってもまだ生き物
好きが治らないとは当時は両親も知る由もなかったのだと思います。
(ベランダにセミがとまっていましたよ!)
生き物の生態はとても不思議で神秘的。そして、繊細で、やり方がまずいとすぐに死んでしまいます。大人の今ならいろいろな
環境を整えてやるべく工夫もできますが、子供の僕に与えられていたものはたいして大きくもない水槽と虫かごだけ。
こんなもので飼える生き物は限られています。
僕につかまった生き物たちは端からどんどん死んでいきます。
本で調べて、同じように土を敷き、餌をやってもすぐに死んでしまうのです。
また捕まえてきて、同じように餌をやって、でもまたもすぐに死んでしまいます。
なにがいけないんだろう……?
本に書いてあることだけでは不十分なことは確かなのですが、じゃぁどうすればいいのか?
いろいろな生き物を死なせて、子供心にぼんやりと感じたことは生き物が生きていくには環境がとてもとても大事だということです。
「環境」なんて言葉は知りませんでしたがなんとなくそういうことに気付いたのです。30センチ四方にも満たない小さな水槽の中で
長く生きる生き物など稀なのです。あれはただ単に子供に使わせるのに手っ取り早い便利なおもちゃに過ぎず、生き物を入れるよう
なものではなかったのです。
(カエルは生きた餌しか食べません。もうその時点で飼うのはとても大変…)
どうやったら死なせずに飼えるのだろう?うまく繁殖させられるのだろう?今でも飼ってみたい生き物はたくさんあります。
そして、生き物をただ生かすのではなく、まるで野生の状態で生きているような環境を再現させてみたいと思うのです。近年に
なってビオトープという言葉が出てきましたが、これはまさに僕が子供の頃から興味のあった世界です。生き物が閉じ込められて
生きてくのに最低限の環境を与えられ、嫌だけど死ぬほど劣悪な環境というわけでもない、そんな飼い殺しみたいな飼い方ではなく、
むしろ生き物が好んでそこに居続けられるような環境を作ることができないものかしら?ということに大きな関心があるのです。
これは、これからの地球環境を真剣に考えるのにもとても重要な考え方だと思っています。
バッタやカマキリを探し回って原っぱを駆け回る、ふと気が付くと湿った空気の匂いがします。そのうちにサぁ~っと雨粒が葉を
たたく音とともに夕立が落ちてきます。少しくらい濡れたってお構いなしに虫取りをしていると、脛に、サンダルに葉っぱがへばり
ついてチクチクとするのです。そうこうしているうちに遠くから雷の音が聞こえてきました。さっきまでとは違う大きな雨粒が落ち
てきました。バタバタバタッ!!さっきまでの穏やかな雨音から一転せわしない雨音に変わります。
もう虫取りどころではなくなってきました。逃げるようにして家に帰ればずぶ濡れの泥だらけの葉っぱだらけの姿を嫌なものでも
見るような母の視線が突き刺さります。家に逃げ込めば雷はもう怖くありません。
夕立もひとしきり降り続くとやがてはやみます。
雨が土を濡らしてくれたおかげでだいぶ暑さがやわらぎました。近所で豆腐屋さんのラッパが聞こえてきます。日が傾き、いつの間
にかカナカナが鳴きはじめました。今日がそろそろ終わります。
日が暮れればそろそろ土に潜って姿を消していたカブトムシが這い出してきます。僕は今か今かと水槽の中を何度も見返します。
カブトムシは土に潜っているのになんで夜になったことがわかるんだろう?不思議でたまりません。母親に聞いても興味のなさそうな
返事しか返ってきません。父親はいつまでそんな汚いもの家に置いとくつもりだという視線で黙ってみています。
カナカナはなぜ夕方になるとなくのか、オタマジャクシはどうやってカエルになるのか、コオロギはなぜ夜になると鳴くのだろう、
雨が降った後駅までの砂利道が川のようになるとその水はどこまで流れていくのだろう、考えるほどに面白くて仕方がありませんでした。そしてそのほとんどは両親を含め誰も興味を示さないのです。むしろみんなそういうことは嫌いみたいなんです。虫!汚い!
気持ちが悪い!ぬかるみ!汚い!気持ちが悪い!雨!うっとしい!気持ちが悪い!こおろぎ!気持ちが悪い!カエル!気持ちが悪い!
気持ちが悪い!気持ちが悪い!汚い!汚い!汚い!!
(ちょっとした空き地が楽しくて楽しくて仕方のない場所でした)
僕の好きなものはみんなが嫌いなものでした。いつもの原っぱが道路になって、バッタもカマキリもトカゲもみんないなくなりました。父も母も「ずいぶん便利になった!」とても喜んでいます。
僕はやることがなくなりました。僕は変わり者なんだ。学年が進むうちに自分で自覚するようになってきました。幼い子供から少年に
なり、友達はみんな原っぱには興味が無くなり、近所の駄菓子屋でたむろし、インベーダーに夢中になり、誰々先輩が怖いだの、昨日
のドリフがどうだったとか、誰と誰がつきあっているとか、僕にとってはどうでもいいことがみんなの話題の中心になっていき、いつ
しかうわべは調子を合わせるようになってきました。
僕だっていい加減もう大人ですから、今となってはそれが普通だと思いますよ。どこどこに新しいお店ができたんだよ、こんどあそこ
に道ができて何分でどこどこまでいけるようになった、あれにはいくらいくらかかったらしいよ、あ、そういえばあの人離婚したらし
いね、なんとかさんかっこいいよね、そうそうあそこは美味しいよねぇ、うんうんおしゃれで素敵なの、あの人知り合いだから今度
紹介してあげるよ、いろんな話題があります。でも虫や自然のことが話題になることは皆無です。
「その道路ができたことでどれだけの動物が、虫たちが住処を失ったか知っていますか?」
そんなことを言えば場の空気が悪くなりますからもちろん言いません。
(美しい緑と見るか、草茫々で荒れ果てていると見るか)
僕は生き物が好きです。
生き物というのはペットショップにいるのではありません。
僕らのすぐ隣にいるのです。
僕らの隣に生き物がいることがそんなに気持ちが悪いかしら?
生き物を自然を大事にしようという言葉。うわべで言うことは簡単です。
でも、それは突き詰めていえば人間の経済活動を批判する言葉になりかねません。
道路建設が、宅地開発が自然を破壊する。
でも僕も道路を存分に活用して仕事をしている一人です。
批判なんかできる筋合いではないのです。
人間が永い年月の中で安定した暮らしを求めて築いてきた現代社会を批判なんかできようはずがありません。願わくば、これだけ強大になった人の力を知恵をこれから他の種の生き物との共存という方向で使える時代が来たらいいなぁと切に願うばかりです。
生き物を良く知ってみてください。
猫なんて、と思っていたのに飼ってみたらかわいくて仕方なくなることがよくあります。
他の生き物だってとても愛らしい面があるのです。
良く知ることが、愛着を感じる第一歩だと思うのです。
そして、愛せなければ守ることはできないと思うのです。
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