あぁ、手遅れ……という話
柴犬のポンタと楓が当院に来てからもうだいぶ経ちます。
8月で二匹は1歳になります。
先月楓は初めての生理がありました。ポンタはもう数か月前に去勢手術をしてしまいました。二匹は兄妹でもありますし、子供ができてしまってもいけません。
男の子の去勢手術や、女の子の避妊手術は飼われているワンちゃん、ネコちゃんでは1歳になる前に行うのが最近では普通になっています。
なぜ手術をするのでしょうか?別にしなくてもいいんじゃない?せっかく五体満足に生まれてきているのに。
これには、人によって価値観が違うものですから答えが一通りではありません。
昔は今ほど去勢や避妊手術、予防注射などが普及してませんでした。
それでも犬達、猫達は幸せに暮らしていたようにも思います。
私の高校生の頃に飼っていた柴犬のリキは男の子でしたが、去勢手術はしませんでした。なにもそんなことをする必要はないだろう。
放し飼いじゃないんだし、増えて困ることもないんだからわざわざそんな痛い思いをさせることないって。
お恥ずかしながらしつけの「し」の字もなかったリキは散歩に出せば人のことはお構いなしにグングン突っ走って制御不能、ご飯の時間には吠えまくる、そして致命的なのは他人にはなつかずすぐ咬みつく犬でした。
獣医大学の学生だった当時、友人を家に招くと当然獣医の学生なんてみんな犬好きですから、「お!かわいいじゃん」かなんかいって近づいては咬みつかれてました。
家族にはよくなついた犬でしたから、うちとしては
「まぁいいんじゃないの?うちらは困ってないんだし」
くらいな気持ちでした。でも、これが年をとってから仇となるのです。
( ↑幼い頃のリキ。コロコロで可愛いが、見ようによってはこの頃から猛者の片鱗が…… )
リキは10歳過ぎた頃にお尻に大きなしこりができました。肛門周囲腺癌という悪性腫瘍に見舞われたのです。かかりつけの獣医さんでもおとなしく見せない犬でしたので、きちんと診断ができないままかなり大きくなってしまっていました。当時私は大学を卒業したものの、獣医の仕事もせず実家を出てフラフラしていたものですから、そんなことになってるとは知らなかったのです。久しぶりに実家に帰った時にリキのお尻がおかしいことに気づき、もしやこれは癌ではあるまいなと、母校の付属の病院で診てもらったのです。結果は案の定……。
この時は諸先生方のご尽力があったおかげで手術でひとまず摘出に成功。が、術後の入院がおとなしくできず、即退院の運びに。先生方を相当手こずらせたようでした。誠に申し訳なく……獣医の資格を持っていながら何もできない自分が不甲斐なく…
で、この話には続きがあって、結局リキはこの数年後に癌の再発と思われるしこりのせいで急におしっこができなくなり、かといって獣医さんでは相変わらずの徹底抗戦でまったく触らせず、七転八倒したのちやむなく安楽死となってしまったのです。
かかりつけの先生にも本当にご迷惑をおかけしたものだと思います。
やっぱり手術しておいた方が良い……んだよね という話
なんとも後味の悪い最期を迎えたリキ。
実は去勢をしていない老犬にはこのような肛門周囲腺癌や、会陰ヘルニア、前立腺癌、前立腺肥大などのお尻周りの病気が発生しやすいのです。
また、いやらしいことにこれらの病気はいずれも
「おしっこが出ない」とか「うんちが出せない」などと、
不愉快かつ、急速に全身状態が悪化する恐れのあるけっこうやっかいなものばかり。
今時「増えて困るから去勢したい」という犬の飼い主さんはあまり多くないでしょう。
にも関わらず去勢手術が推奨される大きな理由はこうした男の子特有の病気を未然に防ぐという大きな目的があるからなのです。
今にして思えば、去勢手術をしていればあのような病気にはならずに済んだのだろうなぁと、そしてきちんとしつけていればもうちょっと発展的な手段も取れただろうにと反省点のなんと多いこと。
そんなこともあり、幼いワンちゃんが健康チェックなどで来院されると、去勢のお話をするようにしています。
去勢の話をするとまずはじめに難色を示すのはご家族の中ではだいたいご主人と相場が決まっています。
私もそのお気持ち よーっくわかります。
「野球のボールが当たっただけであんなに苦しいんだぞ…… 切ってとるなんて、とんでもないことを言い出す獣医だな」と。
わんちゃんに直接意見を聞いたことはありませんが、様子から察するに手術より野球のボールの方が何倍もツライと思われます。もちろん切り傷の痛みはありますが手術の方がマシなように見えます。
で、これらのメリット、デメリットを天秤にかければ
「やっぱり、手術しといた方がいいのかなぁ, 」
と思うのでした。
女の子の避妊手術も同様に病気の予防が大きな目的になります。
乳腺腫瘍、子宮蓄膿症などは避妊手術を施さなかった老犬に多い病気です。
特に腫瘍の予防を目的とするなら、初めの生理がくる前に手術をするのが効果的なようです。
術後のデメリットとして挙げられるのは、太りやすくなるということです。
最近では、手術を受けたワンちゃんに適した栄養価の食事も作られており、それらをうまく利用することで適正な栄養をとれるように
なっています。
Vets Plan ニュータードケアの特徴
・避妊、去勢後の理想的な体重維持のために、低カロリーかつ満腹感に配慮。
・歯垢が付着しにくい粒の形状。また歯垢が歯石へと変化する際に使われるカルシウムを捕らえるポリリン酸ナトリウムを配合
・腸内の善玉菌を育て、腸の働きを整える可溶性/不溶性食物繊維(フラクトオリゴ糖)を配合。
つばめの話
河辺の駅前にある当院ですが、駅を渡って線路の向こう側にいきますと、西友や東急、などが軒を連ね、梅の湯でゆったりお湯につかることもでき、仕事帰りに温泉につかれるという立地がとても気に入ってます。
今、河辺駅の上空はたくさんのつばめ達で大賑わい。
つばめも不思議と人の近くを好きこのんで生活圏に選ぶ生き物です。
そして、人もなんだかつばめのことが好きですよね。
軒先に巣をつくり、糞などでけっこう汚されたりするのに、その割には徹底的に駆除しようという話にはなりません。
なぜか、つばめには軒下を貸してあげてもいいかな?って思うのです。
先日病院の前で一羽のつばめの巣立ち雛が路上でうずくまっていました。それを近所の方が保護して病院に連れてきてくださったのです。見たところ、怪我をしてるわけでも衰弱してるわけでもないようです。
この時期こうした出来事が頻繁におこります。ようやく羽が生えそろった巣立ち雛は飛ぶ練習を始めます。雛たちはいきなり初めから上手に飛べるわけではありません。
飛び出したはいいけど、途中で地べたで休憩してみたり、動けないでいると母鳥がそこまで餌を持ってきたりしながら、徐々に飛ぶことができるようになります。
この時、猫に襲われたり、人に保護されたりするのです。保護は当然善意で行われます。ところが、保護された後うまくお世話ができず死んでしまったり、すっかり人になついてしまい野生に戻れなかったり、するのです。
猫に襲われるかもしれない。それも仕方のないことです。
今大空を飛び回っているつばめ達もそうした中を生き抜いてきた者たちなのですから。
野生動物として幸せに生きるということは常に危険と隣り合わせ。人間の物差しで測ると非情な程の弱肉強食です。
自然の摂理は人間にはコントロールできないのだろうと思います。
で、雛のはなしのつづき。
結局この子は路上ではさすがに危険なので、うちの軒下に即席の巣をおいてやり、そこに置いてあげました。
ここなら猫に襲われる心配も少なく、飛び立ちたくなったら勝手に行けばよい。
しばらくはじっと巣にうずくまったままの雛。
「やっぱりちょっと弱ってるのかなぁ」
時々餌を与えるのだけど、本人が欲しがりません。仕方なく口をこじ開けてちょっとずつ入れてあげると、一口、また一口飲みこみます。
20分ほどして、また餌をあげようと巣をのぞいてみたら
「あ、いない!」
雛はもう飛んで行ってしまいました。頭をなぜても怖がることのない無邪気な雛。
かわいい子との束の間のふれあいでした。
無事に帰っただろうか…またどこかで行き倒れてないだろうな…
「かわいい子には旅をさせよ」
そんな諺が頭をよぎります。
あの、河辺駅のまわりを飛び回っているつばめ達の中に、きっとあの子もまじっているのでしょう。そして秋になったら南の国へ旅立つのです。きっとそうなんです。
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